とりあえず ダイアローグ やってみよう―明確な正解がないものと向き合う事業所

2022.10.12

Culture

manaby(マナビー)が創業まもない頃から大事にしているダイアローグ。スタッフは研修や勉強会を通して学んでいますが、全国それぞれの事業所でも支援現場で実践しながら、日々鍛錬しています。

 

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ダイアローグを続ける三宮事業所

神戸にある三宮事業所は、2020年6月に開所した事業所です。前回のmanaby TALK!では、ダイアローグをベースとした支援事例を発表し、スタッフ投票で一番学びのあった事例としてmanaby TALK!賞に選ばれました。

このときに紹介したのは、うつ病で仕事を辞めてから長年ひきこもりを続け、「自己特性や配慮事項を考えるのがつらい」と、自身の障害を受け入れられずにいる利用者に寄り添った事例でした。

 

事業所では本人の思いを傾聴し、スタッフ間で「障害受容の拒否感」について何度もダイアローグしたそう。

 

就職活動においては、障害受容が大事であるというのがよくある考え方であり、事業所の支援員もそう考えていました。しかしダイアローグを重ね本人の気持ちに注目する中で、受容できないこともある、受容できなくてもいいと気づいたと言います。

 

それから事業所では本人のつらい気持ち気持ちを受け止め、担当支援員だけでなくスタッフ全員で拒否感も含めて受け入れる雰囲気をつくることに注力。できることに目を向け肯定的な言葉をかけるうちに、落ち込みがちだった利用者が徐々に前向きに就活に取り組めるようになり、いまでは障害受容にこだわらずに働くことができているというお話でした。

 

マナビー顧問であり、多角度からコミュニケーション研究をされている若新雄純さんは、
「障害を受容しないというのはひとつの価値観。自分の価値観を周りに理解してもらえると、安心するし気持ちも前向きになる。その人にどんな価値観があるのか、またそれを聞いた側が『受け取ったよ』と伝えられるのが対話」と解説。

 

同じくマナビー顧問の心理学者 平泉拓さんも、
「一般的な社会の常識では『障害受容すべき』という意見が多いかもしれないが、実際に問題なのは常識と個別性のつながり方。どちらかが問題なのではない。問題は常識と本人の思いにギャップがあるということ。このケースでは、対話を通して本人に寄せていく選択をしたんですね」と専門家の立場から、わかりやすく説明してくれました。

 

安心していられる居場所であるために

三宮事業所の支援員 壷井さんと管理者 小野さんにお話を伺いました。

 

「うちの事業所でも『とりあえずやってみよう』ということで取り組み始めました」(壷井さん)

 

マナビーで開催された勉強会で学んだことをもとに、月に一度スタッフで対話をする時間を取るようにしたという三宮事業所。グランドルールも自分たちの言葉で再解釈して、独自の記録シートを作成し、毎回ルールを見直しながら対話を繰り返しました。

「日頃から業務連絡や会議でよく話してはいるけど、全然違うテーマで話をする時間をつくってみました。話している内容はいつもくだらないんですけどね笑」

簡単なテーマを設けて、とにかく続けることを大切にしたと壷井さんは言います。

 

「趣味を語ろう!」「ハッピーだと感じる瞬間は?」「100万円あったら何に使う?」
スタッフ間で始めた対話でしたが、利用者向けのレクリエーションとしてもやってみるようになりました。決して強制はせず、希望した方が参加できるスタイルで、月に一度いまも定期的に続けています。

 

最初は様子を見ていた方が、次第に輪に入って発言するようになる姿も見られるそうです。
「コミュニケーションが苦手なのでできるだけ人と関わらないようにしてきたけど、本当は仲間と楽しく話がしたいと思っている方も少なくないと感じています」と小野さんは言います。

 

事業所で始めたこのダイアローグが日常にも根付き始め、気づけば休憩時やランチタイムなどに自然と対話が生まれるようになっていきました。

 

eラーニング訓練でわからないことが出てきたときに、利用者同士で話しかけ疑問を解決するシーンが見られることも。

「中にはお世話焼きをする方も出てきて、新たな一面に驚くこともあります」(小野さん)

 

一方で、個別ブースで静かに学習したい利用者にとっては、ちょっとした話声も集中を妨げる原因となることがあります。利用者同士のコミュニケーションが活性化するにつれて休みがちになる利用者も出てきてしまいました。

 

三宮事業所では、話したい利用者には周囲に気を配ることを伝え、集中したい利用者にはなるべく音に干渉されない席を用意するなどの工夫をして解決することができました。

 

「コミュニケーションによるトラブルが起こることもありますが、就職前にわかってよかったよね、と思うんです。原因を見つめて一緒に考えながら、他者との距離感を知ることができるし自分の限界もわかる。ここでたくさん練習できるといいですよね」(小野さん)

 

利用者が安心して頑張れる場所であり続けるために、三宮事業所ではダイアローグを学び実践し続けていました。

 

2022年10月末には、マナビーで第4回目となるmanaby TALK!が開催されます。全国の事業所スタッフがオンラインで集い、ダイアローグと議論を体感しながら気づきや発見をシェアします。

 

事業所や役割を越えたスタッフが40のグループに分かれて行うワークショップ。今回はどんなケミストリーが起こるでしょうか。後日レポ―トでお届けしたいと思います。

(広報大坪)

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