Iさんは、美容師として働いていたある日、体の異変を感じました。ペットボトルの蓋が開けられない。手に力が入らない。病院を訪れましたが、原因ははっきりとわかりません。
症状について自分でも調べ、考えられる病名を検索しました。そうするうちに、徐々に仕事でハサミを持つことにも影響が出てきました。指定難病である筋萎縮性側索硬化症ALSと診断されたのは、初診から約1年半経った後でした。
「これでやっと治療が始められる!」診断を聞きすっきりとしたと、Iさんは言います。
それからすぐIさんは美容師の仕事を辞め、これからの働き方を考えました。ハローワークに行き、事務職を目指すことにしました。時間が経つにつれ、症状が進行し「通勤での仕事は難しくなるかも」と感じたIさんは、自宅で働くことを前提に仕事探しを続けます。そんな中、地元の難病支援センターを紹介され、そこでmanabyを知りました。
在宅で働くためのITスキルを、在宅で学ぶことができる就労移行支援をまずは利用して、これから刻々と変わる自身の体と向き合いながら働くことができる、在宅での仕事を探すことにしたIさん。
最初に見学に訪れたmanabyの印象は、「とにかくスタッフの方が明るくて、親身になって一緒に考えてくれる。ここで頑張ってみようと思いました」と言います。
Iさんはもともとパソコンが好きで、ITスキルを学ぶことには抵抗がなかったと言います。
訓練ではExcelを中心に事務系スキルを学び、マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)という資格取得に向けたコンテンツも学びました。eラーニングのいいところは、動画で何度も復習ができるところ。支援員と相談しながら、就職に向けて自身のペースで学びを進めます。
「在宅訓練でしたが、遠隔でもしっかりとサポートしてくれました。困ったときはすぐ相談にのってくれて、いつも気持ちよく学ぶことができました」
担当支援員は、Iさんの集中力、学習スピード、前向きな姿勢に感心するばかり。
Iさんは、訓練を始めて約5か月で就職を果たしました。
常に前向きで、順調に歩んできたように見えるIさんですが、きっとたくさんの葛藤や思いと向き合いながら、苦悩を乗り越えてきたはず。前向きに取り組むコツを聞くと
「開き直ること。体はどんどん動かなくなっていく、うじうじしていられない。」と教えてくれました。
IさんがALSと向き合う中で大切にしていたのが、当事者や介護者の生の声を聞くこと、リアルな情報を仕入れることでした。そんな自身の経験を同じ病気の方に届けようと、eラーニングでライティングスキルも学び、ブログで発信しています。
未知の世界で戦うのは、とても勇気がいること。Iさんは「意外となんとかなる。勇気を出して一歩進めば、背中を押してくれる人がいた」と、語ります。そして、悩んでいる方には、まずなんでも相談してみることだと、アドバイスをくれました。
訓練を経てIさんが就いたのは、事務スキルを活かして自宅でデータ入力をするお仕事です。点滴治療のため月に10日は日中通院する必要があるため、今のIさんにぴったりのお仕事でした。現在は手で入力をしていますが、症状が進行しつつある中、音声入力や視線入力についても情報収集をして準備を進めています。
そして「いずれ、ALSの介護事業所を開きたい」とIさんは、考えています。
自分で介護を受けながら、同じALS患者へのヘルパー派遣をする事業所をつくることを目指して、歩みを止めることなく日々前に進んでいます。
(2020年10月取材)