就職して人の役に立ちたい。
たくさん助けられてきたから、みんなに恩返しがしたい。
Yさんが将来の働き方を考え始めたのは、小学5年生のころでした。
筋ジストロフィーを患うYさん、特例子会社に在宅雇用で入社して3か月が経ちました。1日約8時間の勤務で、訪問リハビリを受けるときは勤務時間を調整することができます。今はOJT(On the Job Training)研修として、データ入力業務に取り組んでいます。
8時の始業に向けて身支度をし、余裕をもって5分前にはパソコンの前に着席するルーティンにも慣れつつあります。母がYさんの部屋に立ち寄りパソコン起動をサポートしてくれるとき、「よし、仕事だ」と気持ちのスイッチが入ります。学生時代とは違う、いい緊張感です。
車いすで同じ姿勢で働き続けるのは、疲れるだけでなく危険も伴います。休憩時間にベッドに移って体を横にして休むことができるのはとても重要です。首が疲れないようにパソコンの位置を工夫し、操作しやすいマウスを使ってタッチキーボードで入力。
細かい入力作業による目の疲れもあなどれません。体温調節がうまくできないため室内温度もエアコンで管理しています。仕事に集中できるように、疲れはどう軽減できるか、考えて工夫をする日々です。
一緒に働くメンバーは、リウマチや下半身麻痺など障害もさまざま。キーボードを棒で操作する人やスマホ入力を活用する人も。仲間との情報交換で工夫の幅も広がります。
Yさんが高校3年生のときに新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。家族や友人のサポートを受けながら高校に通学していましたが、重症化リスクの高いYさんは一人自宅でリモート授業を受けることに。教育委員会の介助員の方が毎日教室から配信をしてくれました。
それから1年。高校を卒業して就職活動を行いましたが、世間はコロナ禍で求人数も激減して厳しい状況でした。そんなときにハローワークで就労移行支援manabyを紹介され、「在宅で訓練もできるし、気になっていたデザインの仕事も目指せるかも」そう思って入所を決めたと言います。
デザインに興味を持ったのは、修学旅行のプログラムのひとつとして体験した職業訓練がきっかけでした。修学旅行先である岩手県一関市観光協会のパンフレット制作を体験したYさんは、パソコンで広がる可能性を感じました。
「将来の働き方、自分ができることって何だろうと考えたときに、デザインならいろいろなところで役に立つことができるかもと思ったんです」
こうして働き方のひとつとしてデザインという選択肢が生まれました。
早速マナビーでは、デザイン系スキルを学び始めたほか、どんな職種にも必要となる事務系スキルの習得を目指しました。在宅訓練ではチャットツールで支援員とコミュニケーションをとり、ビデオ通話ツールを使って相談しながら訓練を進めます。月に一度は、移動の練習も兼ねて天気のいい日に事業所まで通所をしました。
自分にできることをやる。
とにかく訓練に集中して、着々と就職に向けて準備を進めました。
それから1年たたずに就職活動を開始したYさん。高校卒業時に見つけてから「ここで働きたい」と思い続けていた企業1社に絞って応募し、見事採用となりました。
コロナ禍にリモート授業を受けたこと、在宅訓練でのオンラインコミュニケーション経験が在宅での仕事に役立っていますが、実践で学ぶこともたくさん。業務ツールの使い方はもちろん、テキストでの表現方法やメールの送り方などについて先輩からアドバイスをもらいながら、日々奮闘中です。
研修が終わると配属が決まりますが、希望のデザイン業務に就けるかは社内の状況によるため、まだどうなるかわかりません。
「どのチームに配属されても、できることをやって役に立ちたい」とYさんはまっすぐ前を向きます。
あるとき同期の仲間と初任給の使い道の話題になりました。Yさんもあれこれ考えます。それから手にした初めてのお給料で、Yさんは家族にごちそうし、中学高校の恩師にお米を贈りました。自分には、趣味のアニメ鑑賞用にヘッドフォンを購入。
休みの日はアニメや映画を観に行きたいし、状況が許せば出かける幅を広げて家族と旅行にも行きたい。やりたいことがたくさんです。
これから就職を目指す人へ。
「焦らずに、その環境で自分にできることをやって、自分のスキルアップをすること。そして一人で悩まず、相談すること。勇気はいるけど、楽になるし、相手も相談されると嬉しいはず。僕が言うのもおこがましいですが」
(2022年7月取材)