【導入企業ストーリー】障害者が社長になってもいい─自分の姿を通して伝えたい、自立のかたち

2026.01.06

車いすユーザーとなったことをきっかけに、障害福祉の世界へ飛び込んだ橋本さん。「障害者が会社の社長になってもいい」「自分で仕事をつくって生きていくのも自立」─そんな想いを胸に、2023年に起業し、就労継続支援A/B多機能型事業所J・BASEを立ち上げました。

 

働きづらさから始まった福祉への道

8年前、大動脈解離による脊髄損傷で車いすユーザーとなった橋本さん。8か月の入院を経て職場復帰したものの、働く中で少しずつ“働きづらさ”を感じるようになりました。

 

出張や転勤が多く、国内外300以上の取引先を管理する購買業務は、車いすでは物理的に困難に。復帰した部署では、100人の中で障害者として働くのは初めてのケースでした。会社は真剣に向き合ってくれましたが、現場での困難は少しずつ積み重なっていきました。

 

「できたことができなくなった。排泄障害もあり、尊厳がつらくて、ずっと下を向いていた」と振り返ります。

 

そんなある日、公園での出来事が橋本さんの心を動かします。駐車場で待っていた彼のもとで、子どもが知らない家族に「遊んでください」と声をかけていたのです。

 

「それを見て、親の僕がやらなきゃと思った。上を向かなきゃって」

 

この瞬間が、障害福祉に向き合うきっかけとなりました。当事者としての経験を活かし、福祉の道へと歩み始めます。

 

 

「選択肢を増やしたい」初めての事業所づくり

当事者の自分が何かできるような仕事をやりたい、と福祉を学び始めてから、着目したのが就労系のビジネスでした。親目線で、ここに通わせたいと思えるような事業所をつくりたいと、宇都宮市内にとどまらず神戸の事業所にも訪れ、理想の在り方を模索しました。

 

「障害者は仕事の選択肢が少ない。だから増やしたい」

 

障害者の収入面にも課題を感じた橋本さんは、少しでも還元できる仕組みをつくるため構想をまとめていきました。そして物販事業からスタートしようと考えます。しかし福祉業界は未経験、サビ管やスタッフとともに、まずは福祉・労務・会計などを一から学ぶところからスタートしました。

 

「投資だと思って勉強しましたね。それで時間も体力もとられてしまった」

 

物販事業は思うように動かせませんでしたが、利用者が増えるにつれて、一人ひとりの希望に合わせたデータ入力やライティングの仕事などを提供していきました。そしてデザイン知識のある職員が加わったことをきっかけに「デザインは正解がない。ハンデがなく平等な仕事ができる」と気づき、動画編集なども学び始めます。

 

さまざまな仕事に挑戦する中で、利用者の適性や関心に合った業務が自然と定着していき、現在はA型でクリエイティブ案件、B型でPC作業やものづくりを中心に展開するようになりました。全国福祉ネイリスト協会と連携し、入院中の方や介護施設の方にネイルを届ける活動も始めています。ネイリスト体験を通じて「これを仕事にしたい」と語る利用者も現れ、可能性が広がっています。

 

マナe 導入で広がる学びの時間

B型事業所の利用者から「PCスキルを身につけたい」という声が上がり、開所まもないタイミングでeラーニング教材「マナe」の導入が決まりました。支援員も「自分が勉強するならこれがいい」と即決。現場での活用がスタートしました。

 

「動画の長さもちょうどいい。5分見て復習して、次に進む。飽きずに続けられる」(橋本さん)

 

現在は、毎日午前中に「マナe」で2時間学習し、午後は仕事に取り組むというスタイルで活用中です。支援員は進捗管理機能を活用しながら、利用者一人ひとりの学習状況を把握し、声かけやサポートを行うことで、継続的に学びやすい環境づくりが進んでいます。

 

利用者からは「事業所で4時間過ごす中で、仕事だけじゃなく学びの時間があるのがありがたい」との声も。“優しすぎず、難しすぎず”という点が支援員にも受け入れられ、日常的な学習ツールとして定着しています。

 

役所からのアンケートで「学びの時間をつくっているか」と問われた際も、「言われる前からやっている」と胸を張って答えられるのだと言います。

 

このマナeを同業者にも積極的に紹介している橋本さん。事業所の垣根を越えて、支援の質向上を目指すネットワークづくりにも取り組んでいます。

 

自分の姿を通して伝えたい「自立」のかたち

「障害者は基本、目線が下。でも僕を見てほしい」

 

自分ひとりでは難しいことも、仲間と組織をつくって取り組めば可能になる─橋本さんのその信念が、事業所の空気を形づけています。

 

事業所では、業務マニュアルを利用者と一緒に作成。一般企業での後輩指導と同じように、模擬体験を通して「受け身ではなく、自分で考える力」を育てていました。

 

「自分で仕事をつくって生きていくのも自立です。一般企業への就職だけがゴールじゃない。福祉就労では生活に十分な収入を得るのが難しいけど、デザインやパソコンスキルがあれば副業もできる。そういう気持ちで学んでほしいですね」

 

席はフリーアドレス制で、A型とB型の利用者がチームを組みWeb制作などの業務に協働で取り組んでいます。利用者同士が自分たちでスキルアップする環境になりつつあると橋本さんは言います。

 

障害福祉の認知を広げたいという考えから、事業所は路面店として開設されました。内装もおしゃれにし、「ここで働いていることを誇れるように」と工夫されています。

 

福祉というと介護を連想する人が多く、障害福祉については知られていない部分も多いのが現状です。橋本さんは「見られて慣れてほしい想いもある」と語ります。

SNSはインスタグラムのみで、広告は出していませんが、毎月5〜10人の見学希望があり、定員の関係でお断りすることもあるほどです。

 

見学に訪れる人の多くは、デザインやパソコン作業に関心を持っているそうです。そうした興味をきっかけに来所する方が多い一方で、橋本さんは「それ以外にもできることはたくさんある。ここで満足せず、もっと稼げる世界を見てほしい」と語ります。

 

橋本さんは、利用者の可能性を広げることを何よりも大切にしていました。利用者は1~2年で一般事務として就職し、副業でデザインを続けたいという方も多いそうです。

 

今後は、事業所の拡大も視野に入れています。

 

障害者が自分の力で働き、自立していくための場をつくること─その中心には、当事者としての経験と、未来を見据えるまっすぐな眼差しがありました。
(2025年10月取材)