地域と人とつながる仕事。チームで創り上げた「感謝のデジタル紙芝居」

人それぞれが持つ「できる力」を活かし、社会に新たな価値を生み出すmanaby CREATORS。今回ご紹介するのは、地域のさまざまな人の想いをつないで完成した、特別な「デジタル紙芝居」プロジェクトです。

 

プロデューサーの中田さんの企画のもと、manaby CREATORSのメンバーたちが一つひとつの想いを形にして創り上げたその作品には、企業への敬意と働くことの喜びが詰まっています。

 

 

デジタル紙芝居が拓く、新たなクリエイティブの可能性

デジタル紙芝居とは、従来の紙芝居をデジタル技術で表現したもの。イラストやアニメーションをデータで制作し、ナレーションや効果音を加えて構成するコンテンツです。

 

中田さんが企画・プロデュースを担当し、コンテンツアイデア・デザイン・イラスト制作をmanaby CREATORSが手がけてきました。これまでにも複数の作品が世に送り出されています。

 

今回の舞台は、宮城県多賀城市に本社を構える海藻製品メーカー、理研食品株式会社。同社はわかめを中心とした製品の製造だけでなく、食育活動にも力を注ぎ、学校給食での海藻摂取を楽しく伝える活動をされています。

 

理研食品株式会社Webサイト

地域の漁業従事者の高齢化・後継者不足といった社会課題にも向き合い、温暖化に強い品種の開発や、漁業者の収入向上に繋がる収穫作業の改善など、持続可能な産業への貢献を目指しています。

 

ブランドコンセプトである「ときめき海藻屋」について、総務部の芳賀順さんは「まず自分たちがときめき、その気持ちをお客様へ届けたい」と話します。社内では、判断に迷った際に「自分も相手もときめくかどうか」で意思決定するほど、この哲学が浸透しているそうです。芳賀さんの言葉からは、地域全体を豊かにしたいという強い想いが伝わってきます。

 

理研食品株式会社 芳賀さん

“恩返し”から始まったプロジェクト

このデジタル紙芝居は、多賀城市のある職員からの特別な依頼を受けて制作が始まりました。震災当初から理研食品や芳賀さんとつながりが深いその方は、地域の子どもたちの工場見学受け入れやイベントへの協力など、長年にわたる地域貢献への感謝として、「恩返しがしたい」と私財を投じ、制作に踏み切りました。動画には、企業紹介を超えて、理研食品と芳賀さんへの敬意と感謝の気持ちが込められています。

 

その思いを受けて中田さんは本社工場を訪れ、芳賀さんから直接話を聴きました。理研食品が大切にしている「ときめき」の哲学、そして芳賀さんの想いに強く心を動かされた中田さんは、準備していた台本を大幅に修正。その熱い想いはmanaby CREATORSのクルーにも伝わり、彼らの創造力を大きく引き出すきっかけとなりました。

 

完成したデジタル紙芝居は、理研食品の61周年記念日にオンラインで他の工場にも配信され、約200名の社員が視聴。芳賀さんは初めて動画を見たとき、「ブランドマークやパッケージ、乾燥機の描写が非常にリアルで感動しました。そっくりです」と質感の高さに驚いたと語り、高く評価しました。

 

社内からも好意的な声が相次ぎ、「芳賀さんの特徴がよく描かれていて面白かった」「将来は宇宙や陸上でわかめが養殖される物語に夢が膨らんだ」「工場見学にきてくれた子供たちにも見せたい」といった感想が寄せられました。冒頭に登場した“ザック星人”には「なんだ、このバケモノは(笑)!」と驚きつつも、「かわいらしくて癒された」といった反応も多く、その豊かな表情が社員の心をつかんだようです。

 

 

manaby CREATORSの挑戦と成長

制作には約10名のメンバーが参加し、それぞれの得意を活かした役割分担が行われました。

 

絵コンテ作成と一部シーンの清書を担当したTOSHIさんは、「芳賀さんの魅力が伝わるように、似ていると喜んでもらえるように、特に力を入れて描きました。実在する人物を描くのはとても楽しくて、ウキウキしました」と語ります。

 

キャラクターデザインや背景を担当したアコチャンは、「背景はリアルに、惑星人はポップにして、その対比を意識しました」と工夫を振り返りました。

 

制作過程では、機械の種類を間違え一から描き直すというハプニングもありました。また、ラストシーンの糸電話でザック星と地球をつなぐ表現が一番難しかった、とTOSHIさんは言います。架空と現実をつなぐ表現は、メンバーみんなで知恵を絞って完成させました。

 

「描くのは孤独な作業なので、見てもらえて初めて人とつながれた気がした」とTOSHIさん。アコチャンも「喜んでもらえたことが何よりの達成感」と続けます。自分たちの作品が社会に放たれ、社員のみなさんに喜んでもらえたことが、彼らの大きな自信となりました。

 

 

共創の意義と未来への可能性

manaby CREATORSの支援員である太田さんと遠藤さんは、メンバーの頑張りを見守ってきました。

 

太田さんは「みんな作品へのこだわりがすごかったですね。特にアコチャンが描いた『ふえるわかめちゃん』は写真と間違われるほど上手でした」と評価。遠藤さんは、「紆余曲折ありながらも、完成形を目指して最後までしっかりやり遂げていました。ゼロからアイデアを生み出す発想力も素晴らしかった」と、メンバーの成長に目を細めます。

 

「好きな絵を描くのとは違い、クライアントに応える経験が自立へのステップになる」と遠藤さんは続けます。プレッシャーに体調を崩すことがあっても、責任ある制作を通して社会とつながり、それが自立につながっていくはずだと、考えています。

 

理研食品の芳賀さんは「制作能力、完成度のこだわり、利用者さんの実力に感心しました。質の高い作業が行われていることを実感しました」と、今回のプロジェクトを通して、企業と福祉事業所の連携の可能性を強く感じていました。

 

「みんなで力を合わせて一つの作品をつくる」ことに今後もチャレンジしていきたいという遠藤さんと太田さん。絵を描かなくても、色塗りを担当したり、アイデアだしに参加をしたりと、多様なかかわり方ができるのがチーム制作のいいところです。

 

manaby CREATORSでは、地域や企業との連携を通じて、多様な「できる」が生まれ続けていました。

(2025年7月取材)