パワハラ退職から、前に進めるようになるまで

Nさんはパソコンが好きで責任感の強い20代前半の男性です。発達障害の診断を受け障害者手帳を取得したのは、manabyに通う少し前のことでした。

 

専門学校でインフラネットワークを学んだNさんは、新卒で就職した会社では基幹システムの運用保守を行う仕事を任されていました。

 

深夜対応が必要なことも多くハードな毎日でしたが、責任のある仕事にはやりがいを感じていたと言います。そんな中、上司からのパワハラによって体調を崩してしまい、やむなく退職。落ち込んでいたときに、ITを学べる就労移行支援があると母から紹介されて、manabyを訪れたのでした。

 

弱音を吐いてはいけないという呪縛

manabyでは、以前から興味のあったHTMLやプログラミングスキルを中心に学びました。仲間と一緒にお昼を食べ、レクリエーションにも積極的に参加していたNさんですが、実はしばらく支援員にも悩みや本音を話せずにいました。

 

子供の頃は、職人気質な祖父や、家族のために働く父の背中を見ながら「自分も強くありたい」と尊敬していました。ニュースなどで社会問題を目にするうちに「男としてしっかりせねば」「社会に貢献しなければ」という責任感を強く持つようになっていきました。それがいつしか「弱音を吐いてはいけない」という想いにつながり、悩んでいる自分が情けない、恥ずかしい、と思うように。自分を苦しめていってしまったのです。

 

「このままでは前に進まない。思い切って話してみようと思った」とNさんは振り返ります。

 

支援員との対話を繰り返し、気持ちを紙に書き出して、アウトプットをする練習を始めました。何度もやりとりをするうちに、Nさんは徐々に気持ちが整理されていくのを感じました。

 

オリジナルwebサイトをつくる事業所内のプロジェクトにも参加しました。訓練で身に着けた技術をもとに、Nさんは積極的に意見をしてチームを引っ張る存在に。これまでは悩みを一人で抱えてしまい苦しんでいたNさんですが、このプロジェクトでは困っていることや気持ちを伝え、仲間を頼ることができたのです。そして企画から2週間という短期間で、webサイトをつくり上げました。

 

自分と向き合って得た新たなキャリア

それからNさんはIT企業に就職し、障害者雇用チームでWeb制作を担うコーダーとして新たなキャリアを歩み始めています。

 

manabyに通い始めてから約10か月。ITスキルを学ぶだけでなく、自身の克服したい部分に向き合い、障害に対する理解を深め、就職活動ではしっかりと自分の希望や思いを伝えることができました。ずっと見守り支えてくれた家族にも、感謝をしています。

 

緊急事態宣言が発令された中での入社となり、急遽在宅勤務からのスタートです。チャットでやり取りをしながら、チームのリーダーや先輩に相談して仕事を進めています。適材適所で、一人ひとりの考えが尊重されていると感じる職場だそうです。

 

「給料をもらうからには責任をもってやりたい」と、研修に励んでいました。

 

寄り添い支え合う社会

自身の経験から、同じように悩む方にこんなメッセージ。

 

「いま辛くて仕事を辞めようと思っている人や辞めてしまった人は、思い切って支援者に相談してみてほしい。障害を持っていることに引け目を感じ、手帳を取ることもためらうかもしれない。サポートを受けるなんて、と思っているかもしれない。自分は、ここにきて前に進むことができた。周囲の反応は思っているほどネガティブじゃない。もっと頼っても大丈夫。日本の社会は、もともと寄り添って支え合ってきたはずだから。」

 

(2020年4月取材)