生きるために、自立する。在宅ワークの暮らしと仕事。

車いすユーザーのNさんは、特別支援学校を卒業した後、家の近くの就労継続支援B型事業所でかまぼこの箱折りをする仕事に就きました。Nさんは脳性麻痺による両上下肢移動機能障害があり、一人での外出には不安があります。自宅から事業所まで近く、送迎をしてもらえることは進路を決めるうえで大事なポイントでした。

 

転機

働き始めて数年が経ったある時、同居する母が体調を崩してしまいました。長い間母一人子一人で暮らしてきて、生活のたくさんの面を支えてきてくれた母。

「母が倒れたら、自分は生きていけないんじゃないか」

初めて死を感じた瞬間でした。

 

それからNさんは自身と家族のこれからの生き方を考えました。スキルアップをしてもっと安定した仕事に就きたい、と思いました。環境を変えるというのは、自由に体を動かせないNさんにとってそう簡単なことではありません。就労移行支援に通うという決断には、大きな勇気と覚悟がありました。

 

着実に、一歩ずつ

パソコンが学べる事業所を探していたところ、当時開所して間もないmanabyを紹介されました。見学をしたときに、在宅でも訓練ができるということがわかりました。

「manabyでやってみよう」

 

早速在宅で訓練を開始したNさん。学校生活のように、月曜から時に土曜までみっちりと学び始めます。支援学校でも情報教育の授業はありましたが、実践的に勉強をしたのは初めてです。HTML、web制作、Photoshopなど、新しいスキルやツールを知ることは新鮮に感じたと言います。

 

面談のために事業所に通所したあるとき、支援員に駅まで送ってもらう道すがら働き方についての話題になりました。

「Nさんは、かっこいい仕事がしたいんだよね。こんな会社どうかな」

 

そういって紹介されたのがいまの会社です。事業所内で説明会が行われると紹介されて参加をしてから、試験・面接を経てとんとんと入社が決まりました。訓練を初めてから就職が決まるまで半年ほど。それだけの短期間であっても、Nさんの姿を見てきた支援員には驚きはありません。日々集中してこつこつと訓練し、ぐんぐんと吸収していくNさんだからこそ推薦できた仕事です。

 

在宅ワーク4年目、感じるコロナ禍

「いまは結構忙しいですね」

入社して4年目、コロナ禍の緊急事態宣言下では休業を余儀なくされた時期もありました。仕事が再開してから、休業中に中断して溜まっていた業務に追われていると言います。そういいつつ、慌てることなく落ち着いて取り組んでいる様子のNさん。仕事の流れができているし、チームで協力をして進める体制が整っているのだそう。パソコンを通じてつながっているので、孤独は感じません。

 

コロナ禍で会社システムの都合による一時的な休業はあったものの、自身の働き方には影響がないと続けます。完全在宅勤務のため通勤による感染の心配はなく、安心して仕事を続けることができています。

 

「これまで家での仕事は楽だと言われることもありましたが、今回在宅ワークが普及したことで、そうじゃないことが多くの人にわかっていただけたかな」

 

暮らし働くコツ

入社以来、在宅勤務を続けるNさんはいくつかのコツを教えてくれました。

 

まずは、仕事中の集中力を保つために5分休憩を取ること。そして、頭を切り替えること。仕事が終わったら、仕事のことは考えない。好きな動画を見たりして、気分転換をする。休みの日には、友人と外出するなど楽しみを見つけておくこと。

 

「仕事が忙しいと辛いときもある。でも無理にポジティブには考えません。だって余計なエネルギーが必要になるから」

 

Nさんは、アドバイスなんてできないけれど、と謙遜しながら続けます。
悩んでいて動けないときは、まずは自分がどうしたいのかを考えること。やってみたいことがあったら遠慮しないで踏み出してみたらいい。人がどう思うか、人がどう言うかではなく、まずは自分。自分が何をやりたいのか、なぜやりたいのかがわかれば、一歩を踏み出すチカラになるはず。

 

「自分より大変な人がいる、音をあげるわけにはいかない」と頑張ってきたNさんは、周囲への感謝と気配りを忘れずに、着実に毎日を暮らし歩んでいます。
(2021年3月取材)