発達障害でHSPな自分を受け入れる―障害者アーティスト

障害者アーティストとして、アート制作のほか自身の発達障害やHSPについて積極的に発信している林谷さん。イベント登壇や執筆記事から垣間見える活躍の様子はとてもまぶしくキラキラと映りますが、背景にはいくつもの苦悩と葛藤がありました。

子供の頃に身に着けた「普通の人のふり」

林谷さんは幼いころから「へんなやつ」として扱われてきたと言います。融通が利かないと呆れられ、何をしても反感を買ってしまう。なぜかわからないまま、責められ、いじめられ、次第に自分は変なのだ、周囲に合わせられない自分が悪いのだと自己否定をするようになってしまいました。

 

気が付けば一人でいることが多く、疎外感を感じた学校生活。これを言ったら怒らせてしまう、こうしたらうまくいく、と少しずつ日常生活をうまくやり過ごす方法を見つけていきました。そして高校生になる頃には、自分の本心をごまかしながら「普通の人のふり」ができるようになったのでした。

 

そして林谷さんは、自分のようにいじめられて苦しむ子供たちの相談にのってあげたい、という思いから警察官を目指します。警察学校での訓練を経て、念願の警察官として社会人生活をスタートしましたが、ほどなくして持病が見つかり、志望とは違う事務職に就くことになりました。

 

働き出してぶつかった壁

事務の仕事は残業も少なく生活しやすいと前向きに捉えてみましたが、やはり思い描いていた理想とは違うものでした。また業務上のコミュニケーションがとても複雑で、上司とのやりとりに悩むことも。やがて「普通の人」を装いきれなくなってしまった林谷さんは、うつ病を発症してしまいます。

 

林谷さんは休職して治療に専念しながら、働き方を見つめ直しました。

「コミュニケーションは難しかったけれど、事務職は問題なく遂行できていた」「普通の人のふりをしなくてもいい職場で頑張ってみたい」

そして警察官の仕事を辞めて選んだのは、企業の障害者雇用で事務として働くことでした。

 

「普通じゃなくていいと思ったら、気持ちが楽になりました」
理解のある上司、配慮のある会社でした。しかし今度は職場環境という問題に直面します。

 

いまでは自身がHSPだと認識していますが、当時はその概念も知らなかった林谷さん。周囲の音や動きが人一倍気になり、自分に関係のない情報や感情も敏感に感じ取ってしまうため、林谷さんにとって職場の雑音はとても辛いものでした。

 

当時お付き合いをしていた現在の妻は、客観的に見て職場が合っていないことを事あるごとに指摘してくれたそうです。それでも1年務め続けた林谷さん。

 

「自分としては何とか頑張りたいと思っていましたが、彼女の客観的なアドバイスもあり、働き方を見直すことにしました」

 

立ち止まって捉え直した自分の「特徴」

子供のころから思いを絵や文章で表現していた林谷さんは、高校生の頃からパワーポイントを駆使したデジタルアート制作を始め、働きながら個展やオンラインショップで制作活動を発信し続けていました。

 

次は自分が集中できる自宅で表現の仕事を目指したいと考え始めたころ、林谷さんは就労移行支援manabyを知りました。気になっていた「在宅勤務」に関する知識を得られそうだったことと、eラーニングコンテンツを自分のペースで学べる点が気に入ったと振り返ります。

 

「manabyではデザイン系のスキルを中心に学びました。何より、客観的な見解を学べたことが、一番の財産かもしれません」

 

通い始めて半年間、林谷さんは自分の強みを言えずにいました。支援者と長い時間をかけて対話するうちに、過去に否定した自分の強みを信じてあげてもいいのかな、と思えるようになっていったそう。得意なこと、不得意なことを「特徴」として捉えて、第三者の意見を受け入れることができるようになっていったのです。

 

自然な自分で目指す未来

林谷さんはいま企業の「障害者アーティスト」の第一号として、新たな挑戦を始めています。インタビュー記事をみた企業から声がかかったことがきっかけでした。

 

障害者アーティストの仕事は、まだ取り組みを始めたばかりで決まっていないことも多いと言います。ASD(自閉スペクトラム症)の特性から曖昧なことは苦手ですが、こまめに確認をして、制作に集中することでストレスを軽減していると林谷さんは教えてくれました。

 

自宅で働く毎日なので切り替えをしっかり行い、心身を整え自分メンテナンスも欠かしません。眠れなくなる、などのサインが出たら早めに周囲に助けを求めることを心がけ、上司には自分の苦手なことやリクエストを伝えることができています。

 

「障害はまだまだ克服できていない」と林谷さんは続けます。
例えばカフェでひとりコーヒーを飲んでいると、隣の席の二人組が、そこにいない人の悪口を言っているのが聞こえてきます。他人の感情が入り込んできて、人の不幸は自分のせいだと感じ、誰だか知らないその人の不機嫌を自分がどうにかしないといけない、などという考えが止まらず苦しくなってしまいます。

 

そうなるのはわかった。だからそうならない環境を選ぶようにする。自分で何とかできるものか、そうでないのか。本当はできるけど、できないと思っているだけなのか。
林谷さんはノートやブログに文章を書くことで、深く考え、感情を整理しながら、自分を客観視してきました。いまもそうして自分と向き合いながら、一つひとつ対処しています。

 

「障害によって仕事でつまずいたことがある人は、自分に自信がないという人も多いかもしれません。でも全然仕事ができないわけでも、ダメなやつでもない。よく自分を知らないだけ。第三者の意見も受け入れながら、自分が一番自分を把握できるようになること。そして相手がわかりやすいように発信すること。自分で自分をプロデュースできるようになるといいですよね」

 

林谷さんは、障害者アーティストのパイオニアとして制作活動に励みながら、自分と同じような経験をしてきた若い世代を応援していきたい、と自然体で頑張っています。

(2021年6月取材)