未経験でも、無理かなと思っても。自ら動けば、つながっていく。

子どもの頃から強迫性障害、うつ病などによって不調と付き合ってきたUさん。今、「在宅」という選択肢によって、初めて就職、新しい生活が始まります。

 

子どもの頃からの生きづらさ

Uさんは、子どものころから「周囲となじめない自分」を感じていたそうです。

 

「弟が生まれて強いストレス感じたのを覚えています。異常に手を洗ってしまったり、同じことを考え続けてしまったり」

 

中学生くらいになると、うつの症状が出てきて登校も外出もままならなくなりました。両親に勧められて、Uさんは初めて精神科を受診します。

 

カウンセリングと投薬を始めたUさんですが、当時はあまり積極的に治療しようという気持ちが起きませんでした。薬を飲むと頭がぼうっとしてしまい、考えることができなくなることが不安で飲まないこともあったと言います。

 

体調には波があり、具合が悪いと横になるほかは何もできません。中学3年生の後半はほとんど学校に行けないまま卒業しました。

 

それからすぐ父の転勤でアメリカへ引っ越すことに。高校には進学せずにしばらく家で過ごしました。生活も落ち着いたころ、通信制の高校に通ってみることにしましたが、やはり体調は安定せず毎日の勉強も思ったように進みません。月に一度のスクーリングも難しく、中退することになりました。

 

「アメリカでの1年3か月の生活は、かなり負担を感じるものでした。外出できないので友達もつくらず、強迫性障害の症状で閉じこもっていましたね」

 

日本に帰国後も体調は同じような調子で、焦る気持ちばかりが募ります。何かしなければという思いでアニメ関連の専門学校に入学。周囲に助けられながらなんとか2年間通い、卒業することができました。

 

「社会経験もしなければ」とアルバイトに挑戦してみたこともありましたが、長くは続けられませんでした。

 

その後も父の転勤に伴う引っ越しがあり、病院や主治医、そして処方も変わっていきます。あるときには、離脱症状が出ることもありました。その時期に初めててんかん発作が起きて救急車で運ばれたUさん。1年で3回発作を起こしましたが、脳検査や投薬治療を受けて症状は治まりました。

 

自立を目指して

転勤族だった父が定年退職を迎える目前に難病を発症してから、家族の生活がまた一変します。

 

母が介護や福祉サービスの手続きなどで忙しくなり、Uさんが家事を担うように。高齢になった飼い犬も介護が必要な状態で、大変な時期もありました。

 

そんな生活が3年ほど続きましたが、時間の経過とともに家族の状況は落ち着いていきました。

 

「いよいよ私も経済的に自立したいと思い、働くためにどうすればいいのかを本格的に調べてみました」とUさん。

 

10代の頃から精神的な状態や体調が悪くて外出できない日々。自分も両親も年を重ねていく中でいつまでも両親に頼るわけにはいかない、一人になったときに生きていけるだろうか。

 

Uさんは、障害者雇用を目指して、就労移行支援に通うことを決めました。

 

これまでもずっと不安を抱えてきましたが、父の病気に直面していよいよ心配が現実的に感じられたとき、ふと行動を起こすことができた、とUさんは続けました。

 

そしていろいろ見学をしてみると、通所して軽作業を行い、生活リズムを整える訓練を中心に行う事業所が多かったそうです。

 

Uさんは、自信の体力や体調では通勤は難しいだろう、在宅で働くにはパソコンスキルが必要だろうと考えて、在宅訓練もできるmanabyを選びました。

 

利用を始めると早速支援員と相談して、Excel、Word、PowerPointから学び始めます。かつて独学で勉強したMOSについても再取得することができました。

 

manaby note(自己理解ツール)を使って、自身の障害や特性についても向き合いました。これまで自分について書き出して整理したことはなかったけど、やってみたらとても役に立ったそうです。

 

週2日から訓練を初めたUさん、最初はそれが精いっぱいでしたが、少しずつ3日4日と増やしていき最終的に週5日に増すことができました。

 

在宅訓練ではチャットツールでの報連相の練習も意識しました。文字で伝えることの難しさを体感し、どうしたら相手に伝わるのか工夫しながらやりとりを続けました。

 

週に1度通所してモニタリング面談を行い、事業所のレクリエーションや講座にも参加してみました。

 

「漠然と働きたいと思って入所しましたが、訓練をしていくうちに、お仕事をするということを現実的に考えられるようになりました」

 

初めての就活

訓練を進めて、いよいよUさん初めての就職活動がスタートしました。

 

最初の難関は、書類選考でした。20社以上応募したうちに書類選考を通過して面接に進めたのは3社だけ。落ちるたびに、精神的に疲れていくのを感じ、落ち続けて1日中寝て過ごすこともあったと言います。

 

「私はコツコツ続けることができるのが取り柄。淡々と求人検索して次を探そうと切り替えました」

 

めげずに応募し続けましたが、就労移行支援を利用できる2年間の期限が過ぎてしまいました。

 

そして利用延長が認められ、さらに頑張り続けた結果、今の会社への就職が決まりました。

 

「実は、1年前に一度落ちてしまった会社に就職することに。2度目の挑戦でした」

 

内定を貰ったのは、就職活動を始めて間もないころに見つけた会社です。障害者雇用への取り組みや働き方についてとても共感し、志望度も高かったのですが、一度目の結果は不採用。

 

もう一度応募してみないかと支援員に勧められたときには、正直無理だろうと諦めの気持ちもあったそうです。でも後悔したくないと再挑戦することを決めたUさん。

 

「自分だけの力ではありません。支援員が手厚くサポートしてくれて、頑張り続けるしかない!と思えました。自分ひとりではとっくに辞めていたかもしれません」

 

自ら動けば、つながっていく

「Uさんは、未経験でも、苦手なことでも、とにかく真摯に向き合っていらっしゃいました。もっと良くしたいという気持ちで、素直に他者の意見に耳を傾け、自分から相談や質問をしてくださったからこそ、今があると思います」(支援員)

 

自分の課題に向き合い自ら行動していく姿勢が企業側にも伝わったはずだ、と支援員は続けました。未経験でも一つひとつコツコツと学び行動していくことで、いいご縁がつながるのだと実感したそうです。

 

Uさんは、就労移行支援での3年間についてこう振り返りました。

 

「やっぱり続けることが大事。無理かなと思っても、休めば力が出てくるし、ゆっくり再開すればいい。やってみたら意外とできたし、進むことができました」

 

入社後はペースをつかんで毎日きちんと続けていくことが目標だと教えてくれました。とにかく早く一人前に仕事できるようになりたい、とUさんは意気込みます。

 

不安を感じてもつい自分で処理してしまうので、これからはジョブコーチや上司、支援員に自己発信していくように気を付けるつもりだと加えました。

 

Uさんの就職について、両親も喜んでくれています。

(2024年9月取材)

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