起業・経営・挑戦・挫折―そして「今」を生きる

40代のMさんは、うつ病と不眠症です。体調には日々波がありますが、manaby WORKSを通じて社会とつながりながら在宅で働くことを目指しています。

 

ステップアップの重圧

福祉系大学を卒業して就職したMさんは、働きながらステップアップをしていかなければと考えて20代を過ごしました。そして20代が終わるころ、満を持して自ら福祉のデイサービス事業会社を立ち上げます。

 

「あの頃は、焦りがあったのかもしれません。起業したものの、急にステップアップしすぎたようで、自分に負担をかけすぎてしまいました」

 

経営者、そして支援現場の担当者として事業に向き合う日々。朝は5時から深夜2時まで働く生活を2年近く続けるうちに、少しずつ心と体に異変が現れるようになりました。

 

頭痛、ふらつき、異常な発汗。疲れとストレスが溜まり続けて「いよいよおかしい、うつの状態になっているかも」と感じて、Mさんは自ら病院を訪れました。

 

そしてMさんはうつ病、不眠症、吐き気、胃痛を診断され、しばらく療養したほうがよいという医師のアドバイスを受けて、休職。数か月休んでみたものの回復しなかったので、一人暮らしを辞めて福島の実家に帰ることにしました。

 

やりたいことは多い、けど動けない

実家で療養をしていると、少しずつ良くなったと感じられるようになっていきました。もともとアクティブな性格のMさんは、いろいろな挑戦を始めました。

 

行政書士の資格取得を目指して勉強をしたり、近所でアルバイトをしてみたりもしました。しかし、少し良くなったと思って頑張っては、体調を崩してして数日間寝込む、ということを繰り返してしまいます。

 

「本末転倒だと思って、どちらもやめてちゃんと休むことにしました」

 

それからしばらくは療養に注力して、しっかり休んだMさん。療養生活が10年を過ぎて体調も落ち着いてきたころ、再び様子を見ながら通信大学に入学、興味のあったパソコンやITについて知識を増やしました。卒業が近づき再び就職について考えたとき、Mさんは在宅勤務を目指してみようと思うように。外出ができない、という理由からです。

 

「体力や免疫力があまりないようで体調崩しやすい。頭痛や腹痛が起こる。外に行くのが漠然と怖くて、不安になってしまうんです」

 

就職活動では、在宅で就職できるところを中心に応募してみましたが、なかなか就職先が見つかりません。そんなときに、父親から「在宅で支援を受けられて、在宅就労を目指せるところがあるようだ」と教えてもらったのが就労移行支援manabyでした。

 

manaby WORKSの使い方

さっそく問い合わせてみると、在宅で利用をする場合も自治体のルールによって月に1度は通所の必要がある、ということがわかりました。自宅から事業所までは、高速を使っても片道2時間。外出も苦手なので通うのは無理かもしれないと思っていたところ、オンラインで利用できるmanaby WORKSを紹介されて、早速利用を決めたのでした。

 

Mさんは、eラーニングを主に自分のスキルチェックのために使用しました。これまで通信大学で学んできたこと、独学で学んだものをおさらいするような感覚で、基礎的なITスキルを復習したMさん。それから「いまの自分にできるもの何か」と模索した結果、ブログを立ち上げることにしました。

 

manaby WORKSでは利用者向けに月に1度全国の利用者がオンラインで集まって、ざっくばらんにお話をする「トークカフェ」が開催されています。Mさんは、このイベントに積極的に参加するようにしています。

 

「私が外出するのは、通院のときと毎月の通帳記帳のときだけ。このトークカフェでの交流が、とても大事な社会的な接点の一つになりました」

 

最初は緊張したけど、いまではもう慣れたというMさん。いろいろな方と交流できることが刺激になっているのだと教えてくれました。

 

そんなMさんを2年半以上みてきたキャリアコンサルタントは、Mさんの変化を感じていました。

 

「初めのうちは面談をしていても体調が悪いと目を伏せていたけど、最近は目を合わせて話してくれます。いまはトークカフェのテーマのアイデアをもらったり、福祉のプロとしてのご経験のお話を聴いたりと、私からも相談させてもらっているんですよ」

 

Mさんはmanaby WORKSで学ぶ全国の仲間との交流や面談を通して、自分を見つめて着々と前に進んでいました。

 

自分を把握して掴んだ自分のペース

それからMさんは毎日コツコツとブログを書き続けて、少しずつ広告収入を得られるようになりました。

 

「パソコンが好きだったので、最初はそれをテーマに書いてみたけど、すぐにネタが尽きる(笑)。反応もいまいちで、なかなかうまくいかなくて悩みましたね」

 

Mさんは記事を書きつつも、どこかにある情報であることに気づいていました。独自性のあるもの、強みのあるものを書かねばならないこともわかっていました。

 

自分にしかかけないものは何か、と考えてたどり着いたのは「実際に自分が経験したこと」。どうせやるなら「突き抜けて好きなことをやろう」と、大好きなあるゲームの攻略をテーマにすることにしたのでした。

 

自分らしいテーマを見つけてから順調に書き進めたMさん。頑張りすぎて腱鞘炎になってしまったり、肩が上がらなくなるほどブログの執筆に集中してしまうこともありましたが、いまでは翌日の予定を意識して頑張りすぎないように調整し、睡眠時間も気を付けるようになりました。

 

体調はその日によって違うため不安な気持ちになることもありますが、マイルストーンを設定しながらルーティンを大切に、日々の生活を続けています。

 

「いまの自分の状態をまず把握することって大事ですね。自分は、manaby WORKSのeラーニングでスキルの確認をして、症状と向き合って、いま自分にできることは何かを考えた。だから今があります」

 

Mさんは、高齢なご両親と同居して生活のお世話をされています。そして、イギリスの社会保障制度の言葉『ゆりかごから墓場まで』についてのお話をしてくれました。

 

「人は支えるときもあれば、支えられるときもある。支えられるときは支えて、支えられる側になったら甘えて、人の助けを十分に受け取れるようになればいいですね」

 

かつて、起業して一人で抱えてしまい病気になってしまった経験から、いまでは悩んだら誰かに話す、無理だと思ったら誰かに渡すようにしてみようと思えるようになったのだとMさんは続けました。

 

Mさんはいま「自分にできることを継続する」ということを大切に、そしてこれからも新しく学び経験し続けたいと考えながら、在宅で働くことを目指して頑張っています。
(2024年1月取材)

 

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