元非行少年が見たどん底と未来

Cさんが就労移行支援manabyに通い始めたのは、半年前のこと。通院をしていた病院で紹介されました。Cさんには睡眠障害、社会不安障害があります。人混みが苦手なので、個別ブースでの訓練は人との距離感が丁度よく、自宅からも近いのでここなら通えそうだと通所を決めました。そんなCさんですが、最初にmanabyを訪れた日のことを、実はあまり詳しく覚えていないそう。処方された数週間分の薬を一気に飲み切ってしまう癖がついており、その日も薬の影響が出ていたのでした。

 

非行に走った子供時代、一人で向き合った生きづらさ

Cさんは、男4人兄弟の次男として生まれ、「あまり構われなかった」少年時代を過ごしました。小学生のころからタバコを吸うなどの悪事に手を染め始めます。中学生になるころには、児童自立支援施設に行くかどうかという話し合いもなされましたが、結局施設にはいかず、中学卒業まで祖母の家で暮らすこととなりました。

卒業後は、祖母が用意してくれた下宿先で一人暮らしをして働き始めました。建設現場、夜のお店、新聞配達など、「中卒でできる仕事をいろいろ経験した」と言います。

しかしそのいずれも、長くは続きませんでした。怒りっぽい性格で職場でのトラブルが絶えず、そのたびに仕事を変えてきました。

「なぜ人が普通にできることが、自分にはできないのだろう」
「なぜ毎日コミュニケーションで衝突するのだろう」

Cさんは悩みました。このままではいけないと思い、人に合わせようと自分なりに努力をしてみましたが、うまくいきません。

 

どん底からの歩み

働き始めてから15年、とうとうCさんの心と体は限界を迎えてしまいました。通院して薬を飲み始めますが、「考え事をしてしまうのがつらい。現実逃避したい」という思いから、処方された薬を一気に飲んでしまうようになりました。簡易宿泊所で寝泊まりしながらの、不安定な生活。Cさんは「どうでもいい8年を過ごした」と振り返ります。

支援員によると、manabyに来たばかりのころのCさんは、あまり関わってほしくないと心を閉じていたそうです。いまでは支援員の助言も聞き入れ、正しい服薬を始めました。なぜ支援員の言葉に耳を傾けるようになったのかを尋ねると「無理強いされることがなく、距離感がよかったから」と教えてくれました。Cさんは、服薬のペースにも慣れて、自分のペースで考えを整理しながら学びを進めています。

 

生きづらさを抱える子供たちのために

 

学ぶこと、知ること、考えることが楽しいと言うCさん。いまはとても「いい感じ」だと微笑みました。週5日、10時から15時までフルタイムで通所して、Word、Excel、PowerPointなどの事務系ソフトや、設計ができるfusion360を学んでいます。パソコンを触ったことはなかったそうですが、メモを取りながら覚える努力をしていました。
ランチタイムやレクの時間には、ほかの利用者と積極的に会話をしている姿も見られます。「仲間外れを作らないように全員にうまく話を振っている。人の話を否定せず、笑顔でおだやかに聞いている。本人はコミュニケーションが苦手と言いますが、ちゃんとできています」と支援員は言います。

そしてCさんはいま、起業を目指して事業計画をいくつも練っているところです。
「食べられないこどものために、虐待を受けるこどものために、自分にできることを探したい」
長い間寂しさと生きづらさと闘ったかつての非行少年は、こどもたちの未来を明るくしたいと、今日もパソコンに向かっていました。

 

(2020年7月)