社交不安障害と生きる。在宅デザイナーという働き方。

中学生のころ、音楽の授業中。クラス全員の前で歌わなければならないという状況は、多くの生徒にとって歓迎できるものではないかもしれません。しかし、人一倍不安と恐怖を感じてその苦しみから時にパニックを起こしてしまうことがあるのが「社交不安障害」です。

 

Kさんは、そんな生きづらさを感じながら大人になり、就職をしました。何度か転職をしながら、前職では専門学校で学んだイラストを活かして、インハウスデザイナーとして一人で多種類の制作物を同時に手掛けるハードな日々を過ごします。

 

雑談や電話対応などコミュニケーションに苦手意識を感じてはいましたが、我慢や努力をしながらこれまで働いてきました。それが「障害」であるとは思っていなかったので、職場の上司や仲間に相談することもありませんでした。そして仕事を抱え込み、ある時過呼吸を起こしてしまいます。

 

通院をして、適応障害と診断されました。そして同時に自身が社交不安障害であることを初めて認識したのでした。

 

就労移行支援との出会い

「そうだったのか。思い起こせば昔から……」
診断をされたことで、合点がいくことがありました。そして休職を経て仕事を辞めたKさんはこれからの働き方を考え始めました。就職活動をしてみましたが、なかなかうまくいきません。

 

そんなときに兄から紹介されたのが就労移行支援という施設があることでした。いくつかの事業所を見学してみましたが、ビジネスマナーを学び事務職を目指す事業所、みんなで作業を行う事業所など、特徴は様々でした。デザインをもう一度やってみたいと考えたKさんは、IllustratorやPhotoshopなどデザインができるmanabyに通うことを決めました。

 

「みんなで一緒に、というのが苦手だったので、個別ブースでの訓練スタイルもいいと思いました」

通所を始めたのは、日本でも新型コロナウイルスの感染が話題になり始めた頃。1か月ほどして緊急事態宣言が発令されたことで、多くの利用者とともにKさんも在宅訓練に切り替えたのでした。

 

コロナ禍に気付いた、自分らしい働き方

在宅での訓練では、eラーニングコンテンツでビジネスマナーやデザインを学びました。通所訓練と違って干渉がなく集中しやすい環境である一方で、眠くなってしまうこともありました。そんなときは休憩時間に昼寝をして、アラームで管理する工夫をしたそうです。

 

支援員とチャットやビデオ通話で訓練の報告や相談をすることはコミュニケーション練習にもなりました。これまでは通勤して働いていたため、チャットなどのツールを使ったのは初めてでした。最初こそ操作が難しいと思ったこともありましたが、慣れてきたことで人に相談をすることも、ハードルが下がったと感じたそう。コミュニケーションの内容によってツールの使い分けができるようにもなりました。

 

在宅訓練をしてみてKさんが気付いたのは「ストレスが減った」ということでした。自分の好きな空間を作ることができるし、これまでの仕事で苦痛だった電話対応もないので仕事も中断されることがない。苦手な雑談をする必要もなく、これまでどうしても気になってしまっていた周囲の目がないのでデザイン仕事も捗りそう。

 

Kさんに、在宅で働く、という選択肢が増えました。

 

自分が思う以上に、できていることはきっとある

それからKさんはmanaby(マナビー)とDMM社の共同企画として実施された在宅デザイナー実習に参加しました。実習では、実際に商材をもとにデザインを行い、上司からのフィードバックを受け、成果物を仕上げる過程を通して自身のデザインスキルを確認します。訓練を通して体調や生活リズムも整えました。そして見事、在宅デザイナーとして採用が決まったのです。

 

「障害や病名を診断されると、最初は落ち込むと思います」とKさん。
でも開き直ること、自分のひとつの特性として受け入れることで、最大限に活かせる方法が必ずみつかるはずだ、と続けます。そして自分の障害に向き合い、それを人に話してみること。自分では気づいていないかもしれないけど、自分ができること、できていることがわかるはず。「大丈夫」そう力強く結びました。

 

コロナ禍、Kさんは自身の新しい働き方を見つけて大きな一歩を踏み出します。

(2021年3月取材)

 

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