「毎日が楽しい」中学時代に強迫性障害と診断され、長く統合失調症で苦しんできたSさん。いまは特例子会社で、やりがいを感じて充実した日々を過ごしています。
Sさんが生きづらさを感じたのは、中学生の時でした。パソコン部の活動は楽しかったけど、授業はつまらないし、人間関係に悩む日々。いつしか不登校となり、行動にも異変が起こるようになりました。ノートを何度も書き直してしまうなど、同じ動作を繰り返してしまう自分に気付いたSさんは、訪れた精神科で強迫性障害と診断されました。
しばらく通院しながら投薬を続けると、徐々に生活も落ち着いていきました。定時制高校に進学してからは自分のペースで過ごせるようになり、気の合う友人もできました。それから好きだった鉄道のことを学びたいと、短期大学に進学します。
鉄道業界に憧れて学んだものの、いざ就職活動となると大きな不安が押し寄せました。応募しても、うまくやっていけるのか、選考は厳しいだろうな、自分にできるだろうか。学校の就活指導員はいたものの、うまく相談できませんでした。
就活にストレスを強く感じるうちに妄想が出てくるようになり、うつ状態になりました。家族とともに精神科を訪れたSさんは、そのまま入院することに。統合失調症でした。
退院してからは家族のもとで療養し、ゆっくりと過ごしました。3年ほどたったころ、働きたいという気持ちが芽生えたSさんは、近所のコンビニでアルバイトを始めます。
Sさんはその働きぶりを認められ、障害を明かさないまま社員に登用されました。しかし、24時間営業のコンビニでの仕事は勤務時間が長くなりがちで、社員になると業務量も大幅に増えました。頑張りすぎたSさん、体調を崩して止む無く退職を決意します。
「働きたい。でも無理をしたら続かない。自分に合う仕事って何だろうか」
そんなときに知ったのが就労移行支援マナビーでした。パソコンスキルを身に着けて働くという選択肢もあるのかと、初めて考えるようになりました。
Sさんは早速役所で利用手続きを行い、利用することにしました。訓練を始めたものの、最初は就職できるか不安でいっぱいだったと言います。パソコンスキルを身に着けることに集中することで、不安は和らいでいきました。事務系ソフトのWordやExcelは高校の授業で学んだことがあり、順調に訓練を進めました。
実際の就労を体験する実習にも参加しました。リアルな職場での業務を体験してみることで、Sさんは徐々に「好きなパソコンを使った仕事をしてみたい」と自分の働くイメージを固めていきました。
支援員と二人三脚の就職活動を経て、Sさんは希望の事務職に就くことができました。身に着けたスキルを生かした業務。自分に合う仕事を見つけたはずでした。ところが、半年たたずに出勤できなくなってしまいます。
定着支援を受けながら、続けるためにはどうしたらよいかを支援員と考えました。面談を重ねるうちに、Sさんが力を発揮できない原因が明らかになってきたのです。
就職先の企業は初めての障害者雇用で同じ部署に仲間がおらず、上司にとっても初めての連続。仕事はできているだろうか、理解してもらえているだろうかとつねに一人で不安を感じつつ、上司には申し訳なくて相談ができない。遠慮をして話ができないまま不安が増幅し、仕事に集中できなくなってしまったのでした。
再度就労移行支援を利用し、支援員とともに改めて働き方の方針を見直しました。実際に経験したからこそ、自分の克服ポイントや力を発揮できる働き方に気が付くことができたSさん。今度はパソコンスキルだけでなく、コミュニケーション訓練にも注力することにしました。
Sさんは事業所で行われるレクリエーションに毎回参加。最初は聞くだけでなかなか発言することができませんでしたが、何度も参加するうちに少しずつ話せるようになっていきました。そして2度目の就活では、職務内容だけでなく自分にとって相談しやすい環境かどうかに注目して企業研究を行い、特例子会社への就職を果たしたのでした。
「今の仕事に就かれてから、ますますコミュニケーション力が向上していて、自信に溢れているのを感じます」と担当支援員。人前で話すことは苦手だと言っていたSさんが、今では卒業生代表として発表するなど苦手なことを克服してきている姿を頼もしく感じています。
Sさんは自身の経験をもとに、自分らしく働くために大切にしたほうがいいポイントを教えてくれました。
「まずは無理をしないこと。そして相談できる人を見つけること。何かひとつきっかけになるような機会を自分でつかみにいく、ということが大事だと思います」
いまでも初対面でのコミュニケーションは緊張するというSさんですが、慣れてきたら大丈夫。雑談も自然とできるようになり、チームで働く楽しさも感じています。ゆくゆくは後輩指導もしていきたい、と頑張っています。
(2021年8月取材)