難病でも働きたい―痛みと闘う人生、完全在宅就労で始まる新しい毎日

Dさんは、ヒルシュスプリング病類縁疾患(小腸の機能障害)や糖尿病と闘いながら、完全在宅で再び働き始めます。

 

2歳からの点滴生活

「両親からは2歳ころからだと聞いています。自覚したのは5歳くらいのとき。いつも家で点滴をしていました」

 

Dさんは、病気によって小腸がうまく働かないため、点滴で栄養を補給する必要がありました。幼い頃から頻繁に起こるおなかの痛みを抱えて、休み休み学校に通う生活。体調には波があり、自宅学習が続くこともありました。それでも中学生の頃は囲碁部に入り、楽しく過ごしたそうです。

 

点滴を入れられる中心静脈の血管は限られており、一度感染すると場所を変えなければなりません。その検査だけで2,3時間かかることもありました。成長するにつれて血管への負担も大きくなり、おなかの痛みは強くなっていくばかりです。

 

それから高校に入学してまもなく、小腸が炎症を起こしてしまいDさんは入院することに。通信制の高校で、週に一度の出席が必要でしたが、なかなか思うようには通えませんでした。

 

そして勉強を続けて20歳になったころ、Dさんは小腸の移植手術を受けます。手術後は食事から栄養を採ることができるようになり、点滴をしなくて済むようになりました。それから順調に学校に通い、卒業に必要な単位を取得することができました。

 

「将来の働き方は思い描けなかった。だからこそ絶対に卒業したかったんです。やりたいことが見つかったときに、後悔したくなかったので。あとは家族が頑張って働いて学費を出してくれているので、なんとしても応えたかったですね」

 

Dさんは努力を続けて高校を卒業し、障害者雇用での就職を果たします。

 

変化する自分に合う働き方

初めての就職は、障害者雇用で事務職としてのパート採用でした。業務内容はゴミ出しや洗濯など。

 

「手術をしたことで栄養面では心配がなくなりましたが、移植した場所とは違う腸の部分に負担がかかってしまったんです」

 

次第に十二指腸が痛むようになり、体を動かす仕事を続けることも、通勤で働くことも難しいなと感じ始めたDさん。友人から「在宅で働けるといいんじゃない」と言われたことをきっかけに、真剣に転職を考えるようになりました。

 

在宅で働くならパソコンはできたほうがいいよな。もう一度パソコンをちゃんと勉強してみたいな。そしてDさんは3年ほど続けた仕事を辞め、就労移行支援に通うことにしました。

 

実はDさんは、移植手術後のリハビリでパソコンを学んだことがありました。その時にExcelの問題を解くのが楽しかったのが印象的で、いつかはパソコンを使う仕事に就きたいと考えていたのです。

 

本音をぶつけて気づいた思い

Dさんは早速パソコンを勉強できる就労移行支援をネットで探し、manabyを見つけました。

 

「見学に行って相談してみると、在宅で訓練ができることや、在宅勤務のことを教えてくれました」

 

Dさんは週3日から通所をスタート、eラーニングでExcel、Word、PowerPointを中心に学びました。困ったことがあれば支援員に相談しながら学習を進めます。訓練を続けていると集中力が切れてしまうこともわかりました。1時間訓練をしたら15分だけ好きなゲームで気分転換をするようにして、自分なりの学習ペースをつかんでいきました。

 

特に課題に取り組んで答え合わせをするのが楽しかったとDさんは振り返ります。好きな学び方を見つけて訓練に励みました。しかし体調には波があり、やる気が出ないこともしばしば。

 

「正直、やったふりをしたこともありました。でも『訓練で取り組むことは仕事だと思って同じようにやってほしい』と支援員に言われたことで、はっとしました」

 

支援員がはっきりと伝えてくれたことで、仕事の意味を考え直したというDさん。それからいっそう真面目に取り組むようになりました。もちろん体調が悪いときもあれば精神的に疲れて落ち込むこともあります。支援員が真剣に向き合ってくれていることを知ってからは、どうしようもないとき以外は頑張ろうと思うようになりました。

 

あるとき信頼していた支援員が異動となり、寂しい思いをしていたDさんは、新しくきた支援員とけんかをしてしまったことがあるそうです。

 

「就職面接の前日のこと。チャットで『来たばかりで僕の何がわかるんだ』と言ってしまった。ちょっといらいらしていたんです」

 

面接を終えてから「今日はとてもよかったよ」とフィードバックをくれた支援員の言葉に、しっかり自分のことを考えてくれてるんだ、と感じたというDさん。付き合いが古いとか浅いとかでなくて、ちゃんと向き合ってくれているかどうかなんだと感じたと言います。

 

本音でぶつかり合ったことで、自分の抱えていた思いと相手の眼差しに気づくことができました。

 

完全在宅で再就職

Dさんは、特別子会社に就職し、完全在宅で働くことが決まりました。

好きだったパソコンの仕事ができるのがうれしくて、manabyで学んだことを活かせることにわくわくしています。少し不安もありますが、ちょうどいいバランスだとDさんは感じています。

 

就職が決まったときには家族も喜んでくれました。
「いいじゃん!」「パソコンのお仕事頑張って!」と応援してくれています。

 

Dさんは、まずはしっかり話を聞いて、慣れるところから始めたいと意気込みます。そしていつかExcelを活かして自分の提案が採用されたらいいな、と密かに目標を掲げていました。

 

「働きたい気持ちがあるなら、絶対周りはサポートしてくれる。少なくとも支援員はちゃんと応えてくれます。自分の気持ちを大事にして頑張って」

(2023年6月取材)

 

 

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